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不意に、足元に譜陣が出現した。
それが何か、把握したときにはもう遅い。
ジェイドが危険を叫ぶより早くに、足元から吹き上げる激流がジェイドたちを巻き上げ、飲み込んだ。
地面に叩き付けられた衝撃でガイとティアが気を失い、ナタリアは体の自由を失う。
アニスは辛うじてトクナガを巨大化させて受け身を取ったもののダメージは大きく、ジェイドもそれは同様だった。


「あらあら、外郭大地の英雄ともあろう方々が、情けないわねぇ」


クスクスと、場の空気にそぐわない和やかな笑い声を上げる少女がひとり。
一行に向かって譜術、それも高位譜術であるメイルシュトロームを難なく放った張本人。
後ろに怯えきったルークを庇うように立ち、ジェイドたちを見つめている。


「何が…目的ですか」

「目的?そうね、強いて言うのなら…レプリカたちの保護、かしら」

「レプリカたちの…?」

「そう。貴方たち被験者の都合で殺される、レプリカの。
馬鹿よね、被験者って。障気の中和にレプリカを使う?自分たちが撒いた種なのに?
レプリカが死を知らないからって、都合よく利用しようだなんて甘いのよ」


うふふと甘い笑い声が唇から零れる。
女性はルークに寄り添い、そっとその白い手をルークの頬に触れさせる。
女性が何事かを呟いた後、ルークの姿は浮かび上がった譜陣の光に包まれて、消えた。


「ルーク!?」

「ちょっとあんた、ルークを何処にやったの!返してよ!」

「『かえして』?」


女性がこてんと小首を傾ける。


「おかしなこと言うわね。彼は貴方たちの所有物ではないでしょ?
それに、これは彼も望んでいたことよ」

「そんなはずはありませんわ…!
ルークは世界の存続のため、その身を差し出すことを決意したんですもの!」

「貴方たちがそう無理矢理決意させただけよ。
形だけの選択肢、利用するだけの仲間達。貴方たち、最初から被験者を使う気なんてないでしょ?
レプリカなんて物扱い。所詮劣化品とでも思ってるのかしら」


ふうと息を吐くと、女性の足元に先ほどルークの足元現れたのと同じ譜陣が浮かぶ。


「どうせ一度見捨てたのでしょう。だったら私に頂戴な。
…世界中のレプリカが消えたら、貴方たちに残された選択肢はただ一つよね。」


女性の言葉に、その場の全員が息を呑み、蒼褪める。


「やっぱりレプリカ頼りの中和計画だったのね?レプリカ保護法が聞いて呆れるわ。
さようなら愚かな被験者たち。私たちを利用するなんてさせないわ。
自分たちのやってきたことの酬いなのよ、自分たちだけでなんとかしなさい」


そう言うと同時。
女性の姿が、譜陣と共に弾けて消える。
はじめからなにもなかったかのように、当たりは静まりかえっている。
ジェイドたちはただ呆然とするしかない。



世界中から、レプリカが消えた瞬間だった。




女神の与える道標



(世界を救うというのなら、その手だけで救いなさい。罪なき者にその重荷を背負わせるな)


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